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王様とお姫様と12人の仲間たち

 その日は、クレヨン王国に住む私にとって忘れられない日となった。
 あの『くろちゃん』が、きいろさんと手をつないだのだから……。

 はじめまして、私はクレヨン王国のクレヨンで名前は『しろ子』、仲間は12人。

 隣りはきいろさん、その隣りはみどり君、それからあおちゃん、ちゃいろさん……と、みんな住む場所が決まっているの。私は一番左端、そして右端が『くろちゃん』
 クレヨン王国の王様の演説は、いっつも同じ。
「いいか諸君!隣りに住む友達と手をつなぐのだ。すると、自分と違うカラーが生まれ、一人ではできなかった事ができるようになるのだ。オッホン!」
 私は、王様のいいつけどおり、あかさんに「手をつなごー」と右手を出すと、「はーい」と手をつないでくれた。私達が手をつなぐと、今まで知らなかったカラーができたの、綺麗な綺麗な(ももいろ)

 それからというもの、私は(自分が知っている私)と違う私を見つけたくて、誰とでも手をつなぐようになった。

 手をつなぐと、たちまち今まで見たこともないカラーが生まれる。

 不思議で面白い! こんなに楽しいのに、くろちゃんは「ふん!俺は誰とも手をつなぐもんか。違う色になるなんて絶対許せない!」と言うの。みんなと手をつなぎ、変わるのが嬉しい私とは、全然違う。でも『くろちゃん』には理由(わけ)があるの。
 あれは、3年前のいいお天気の日だった。
『くろちゃん』は隣りに住む、はいいろ君に「ねえねえ手をつなごうよ」と歩みよると、はいいろ君は後ろに手を回し「厭だね。まっくろまっくろ、くろすけやーい」とはやし立てた。
 くろちゃんは悲しかったけれど、勇気を出して次に、はだいろさんに右手をだしたの。はだいろさんは「だめよ、私のきれいな色が汚れるわ」と言いながら走って行った。

 そんな事が続いたから『くろちゃん』は「俺はくろのままでいいんだ」と、誰とも遊ばなくなってしまった。

 ところがあの日、きいろさんがくろちゃんを訪ねてきてこう言った。「お願いがあるの、私の力だけでは、お姫様を慰める事ができない。だから協力してほしいの」と。
「お姫様はお月様が大好き。でも私のきいろだけでは、ぼーとしてよく見えない。だから『くろちゃん』が後ろに立ってくれたら、私はもっときれいなお月様を作る事ができる」
 そしてあの日、まあるいお月様は、いつもよりきれいな光をだしたの。
 それは後ろで『くろちゃん』が大きく手を広げていたから。

 きいろの光がもっと輝き、お姫様に届くように! そう思いながら手を伸ばしたから。


お姫様は、「今夜の月の光は、なんだか暖かく、神秘的ね」とおっしゃった。

-fin-

2014.04

『○○と▲▲(対比するもの)』をテーマに書いたフィクションです。

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