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365日の虹色アーチ

 私は、30年保育士として勤めた職場を、50歳の時退職した。今から13年前だ。

 職場を去る日、『辞めて良かったと思える何かを探そう』と思った。『何か』がどんなものか、どうすれば見つかるのかさえ解らなかった。

 しかし、私は探し物の答えを見つけた。

 そして、「今私は幸せだ」と心から言える。

 退職する事は、つれあいと何度も話し合った。彼なりの人生計画があったのだろう、私が定年より10年早く辞めることを、すんなりと受け入れてくれなかった。
 でも、最終的には「あんたの人生だから好きなように」と言った。そう言われた時、

『これで良かった』と、彼も私も言えるように生きていこうと、身の引き締まる思いがした。
 私はすぐパートとして働き始めた。
 マンションの清掃、惣菜屋、寮の賄い等10以上の仕事をした。それは、様々な仕事をしたかったし、たくさんの人と出会いたかったからだ。
 それぞれの職場での経験や出会いは、私に社会の現実に目を向けさせ、考え方の視野を広げてくれた。ファックス一枚で、雇用解約された事や、悪い労働条件、環境での仕事もあった。民間企業なら普通でも、公務員だった私には驚く事ばかりで、井の中の蛙だったとしみじみ思った。
 また、年上の人との仕事では、年を重ねるとこんな不都合が起きてくるのか、そう解釈したら執着が少ないのか等、考え方を学ぶ事もあった。年を取るのも、いいなあと思った。
 それから私が、探し物の答えを見つけるきっかけになった出来事がある。
 退職して1年目に父が亡くなった。
 パート勤務だったから、ガン末期の父の看病ができた。1ヶ月の入院生活で父は、人が死に向かって行く姿や、今、生あることを大切にしろと身をもって教えてくれた。

 意識が無くなり、まるで火が燃え尽きたように、すーと消えた命。      
 命ってなんと儚いものか、人はいつか必ず死ぬ。だからこそ、生かされている事に感謝して、今日を精一杯生きていかなくてはと、日々やせ衰えていく父を見て思ったのだ。
 それから、10年働きながら、ボランテイア活動や、スポーツなど、他人と比べるのではなく、私なりの一日の充実を思いつつ暮らしてきた。その中で見つけた探し物の答えはこうだ。

 どんな状況でも、幸と不幸は自分の心の受け止めかた一つで決まる。

 日々是好日。だから今私は幸せだ。

-fin-

2015.10.16

『探しもの』をテーマに書いたエッセイです。

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