これから始まるストーリー
今夜は、厚い雲がたちこめ月はでていない。
暗闇の中を村の衆が、お役人様の屋敷の小屋の前に集まった。村人の影がいくつも重なっている。
「捕まえたユニコーンっていうのはこいつなのか」
「おいらの田んぼをめちゃくちゃにしやがって」
「どれ、悪党の顔を見せとくれ」
村人達は、3日前村はずれの崖で捕まえたユニコーンを、口ぐちに罵りあっていた。
怒りにまかせ、石を投げる者さえいたほどだ。
1週間前、村の田んぼや畑が荒らされ、豚や犬が殺される事件が起きた。いったい誰のしわざか、かいもく見当がつかず、村人達は不安な日々を過ごしていた。
そして、3日前のことだ。
村人が柴を集めていた時、小さなユニコーンを見つけた。首を田んぼに突っ込み、前足で土を掘っていた。
「あ、あれだ、見つけたぞ、みんなきてくれー」
人々は、小さなユニコーンをとり囲んだ。
ユニコーンは甘い香りに誘われて、山から降りてきたのだった。だから、何故みんなに囲まれ罵られるのか解らなかったが、怖くなって必死で逃げた。しかし、幼いユニコーンはすぐ追いつかれてしまった。
「あ、あたし、何も悪いことしてないのに」
「嘘ついてもだめだ!おいら達の田んぼを荒らしたじゃねえか」
「そうだ」「そうだ」
手に鍬や鎌を持った人々は、幼いユニコーンを追い詰めていった。崖の端まで来たとき、後ろ足を滑らせユニコーンは崖から落ちてしまった。
「おねえちゃーん、助けて」その声は、谷間にこだまして、遠くにも聞こえた
村役人の屋敷の小屋に閉じ込められている大きなユニコーンは、それはそれは綺麗だった。
全身をピンクの柔らかい毛に被われ、長いまつげの下の瞳は澄んでいた。耳はピンと立ち、頭の真ん中の角は、濃いピンク色で太く立派だった。
「みなさん、もうこれから決して悪さはしません、許してください」
そう言いながら、首をうなだれたユニコーンのためいきは、村人達の胸に響いた。長いまつげが涙で濡れていた。
一人の若者が「な、皆の衆、もうしないといってるんだ許してやろう」
「そうだな、3日も小屋に閉じ込められ、飲まず食わずだったんだ。これで懲りただろう。逃がしてやろう」
「それに、あの小さなユニコーンは、崖から落ちっまった。おいら、今でも寝覚めが悪いんだ。こいつは逃がしてやろうじゃないか」と言う者もいた。
そうして小屋から出たユニコーンは、何度もお礼を言うと、ぱーと走り出した。
山道を駆け上りながら、村を振り返り低い声で言った。
「捕まった哀れなユニコーンの顔は、今日までだよ、これからお前達に殺された、妹の敵をとってやる。覚悟しときな」
妹の復讐の物語は今、幕が上がったばかりだ。
-fin-
2013.12.09
『ユニコーン』をテーマに書いたフィクションです。