冬が来る前に
風の森峠の極楽沼に、かあさんがえると、カー助、エー吉、ゲロロの3兄弟のかえるが住んでいた。
同じ森に住むうさぎのピョンエモンは、いつも「ふん、ちっちゃな体のくせに生意気なかえるどもだ」と兄弟達をいじめていた。
そんなある日、とうとうかあさんがえるは堪忍袋が切れて、ピョンエモンと、風の森峠の頂上で決闘をしたのだった。
そして、血まみれになって帰ってきたのだ。
「かあちゃん、しっかりしておくれ」
「エーンエーン、ゲロゲロ」と幼い兄弟達はいつまでも、かあさんがえるにしがみついて泣いていた。
それから一週間たったある日。
カー助は、かあさんがえるの敵を討とうと、ピョンエモンに決闘を申し込んだ。
勝ち目のない闘いだとよくわかっていた。
しかし、『かあさんの敵を討ってやる』とのおもいが胸のなかで渦巻いていた。
一方、挑戦状を受け取ったピョンエモンは「なんだ、敵討ちだと、怖いものしらずのかえるだ。俺の自慢の脚で踏みつぶしてやる」と長い耳をピクピクさせた。
決闘の朝。
峠の頂上で、ピョンエモンを待っているカー助の小さな体は熱く燃えていた。
向こうから、うさぎがくるのが見えた
すると、カー助は、かえる一家に代々伝わる『秘伝のがまの油』を体に塗りはじめた。
一回二回、三回と塗る度、カー助の体は大きくなっていった。そして、応援の弟たちに、『がまの油』を何回も塗った。
頂上に着いたピョンエモンは、自分の目がどうかなったのかと思った。何度、目をこすって見ても、あの小さなかえるが自分と同じ大きさになっているではないか。
ピョンエモンは訳がわからないまま、あっという間に投げ飛ばされた。
地面にたたきつけられてもなお、『こんなはずはない。きっと夢なんだ』と笑っていた。
「やったー、兄ちゃんの勝ちだ」
「どんなもんだい、かあちやんやったぜ」
かえるたちの歓声で我にかえったピョンエモンは、はっきりと自分が負けた事を知った。
地面に転ぶうさぎ。喜ぶかえる達。
今年の秋祭りの野外芝居は、なかなかの評判だった。
『風の森峠の決闘』の全一幕は、観客の森の動物たちの拍手と歓声で賑やかに終了した。
こうして秋の日は、暮れていった。
風の森峠と極楽沼に、もう冬はそこまで来ていた。
見渡す限り雪化粧になる日も近い。
-fin-
2015.03.19
『鳥獣戯画』をテーマに書いたフィクションです。