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ここに幸あり

 それが夢だとわかった時、私は泣いた。

「典ちゃんは笑っていたのに……。二人ともおばあさんになって、黄色の花畑に座ったんだよ」と口走りながら、私は枕に顔を埋めて泣いた。

 

 昨日は交通事故であっけなく亡くなった典ちゃんの一周忌があった。

 私と典ちゃんは、ともに28歳で会社の同期だった。仕事帰りに、共通の趣味の映画をよく一緒に見た。
「別れのシーン良かったわ」
「ヒロインのあのセリフ最高だね」と、終電近くまでお喋りしたものだ。私達の映画の好みは違っていたが、私はいつしか彼女の勧めるサスペンス映画が好きになっていた。

 しかし、それを彼女に伝えられないままになってしまった。私は法要に参列していても、亡くなった事が信じられなかった。
 だって、あんなに約束したから、『おばあさんになっても友達だよ』って。
 仏壇に置かれた写真の彼女は、今にも「ね、ね、映画いこうよ」と話しかけてくるようだった。まるで、映画の一シーンのように思えた。典ちゃんが、ポンと私の肩をたたいたような気がして振り向いたが、そこには誰もいなかった。

 もう、ケラケラ笑う声を聞くことも、いつも笑顔だった彼女に会うことができないのだ。

 参列した法要で話す人もいない私の、『亡くなっていない』と思っていた心が折れた。

 その夜、私はサスペンス映画の上演日を確かめた。
「典ちゃん、『一緒におばあさんになろうね』って言いながら寝たら、また夢であえるかな」と呟きながら布団に潜り込んだ。

                    
「さあて、一休みするかあ、よっこらしょ」と私と典ちゃんは、野良仕事の手を止め、形の崩れた麦わら帽子をかぶったまま、黄色の花畑に座った。
 典ちゃんは、濃い藍色、私は薄い藍色の野良着を着ていた。お揃いの藍染めだ。
 典ちゃんは、皺だらけの手についた泥を払いながら、「いい天気だなあ、あおーい空と、花、それから隣りにあんたがいる」と、私を指さし、「ここに幸ありだな」とポツリといった。

-fin-

2016.07

『写真をみて物語を作る』をテーマに書いたフィクションです。

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