パパ弁当はコンビニ弁当
「ママみたいに、お弁当作れるの? パパ」
と、有加は不安そうな顔で俺を見た。
明日は娘の幼稚園の遠足だ。5歳の有加は、もうすぐお姉ちゃんになる。
「ママが病院にいる間、おりこうにするよ」と、昨日ママにバイバイした。
お姉ちゃんらしく、頑張ろうとしている娘の為に、俺は遠足の弁当作りを決意した。
お祖母ちゃんが作ると申し出てくれたのを断ったのは、俺も2児の父親になるからには、『パパ株』をあげなくてはと思ったからだ。
何時も帰宅が遅く、有加と遊んでやれない。
これは『パパ大好き』と思わせる絶好のチャンスだ。まず手始めが弁当作りという訳だ。
スーパーに行くと、俺みたいな30代前半の男の客はパラパラだ。そうか、昼間にスーパーにいるのは、老人か、母親にくっついてくる男の子だけか。
俺は店内をぐるぐる回り「有加の好物は、ウインナーと卵焼きと、唐揚げだ、たぶん……」とぶつぶつ言いながら、買い物をすませた。家につくと、赤い楕円形の弁当箱と、お揃いの箸を出した。有加が弁当を開け、大喜びしている場面を思い浮かべて、遠くの空を見た。
あれは、俺が小学校3年の遠足だった。友達の健太の弁当は、サッカーボールの形の手のこんだおにぎりと、ポテトサラダが入っていた。果物もあった。
俺のは、のりまきの大きなおむすびが3つと、たくわんとほうれん草のおひたしだった。
母ちゃんは畑仕事で忙しいと解っていたが健太の前で自分の弁当を開けるのは、恥ずかしかった。
今なら「母ちゃんごめん」といえるが、あの時は嫌だったのだ。と昔の事を思い出していた。
有加にはそんな思いをさせられないと、俺は俄然やる気になった。
当日の朝、早起きして弁当作りにとりかかった。ママのエプロンをして、頭にはバンダナ、格好は完璧。昨夜イメージした通り、小さめのおにぎりを3つと、甘い味付けの卵焼きとからあげを入れよう。
「ごめん、唐揚げはレンジでチンな」
そして2時間あまり、俺は汗だくになった。
「パパ、お弁当できた?」
「もちろん、バッチリだよ」
「うわーい、嬉しいな、パパありがと」
有加は、弁当箱をうさぎのリックサックに入れて大喜びだ。
「ごめん有加、ほんとうはコンビニ弁当を赤い弁当箱につめかえたんだ」
-fin-
2016.09
『お弁当』をテーマに書いたフィクションです。